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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)8563号 判決

原告 吉原辰之助

<ほか六名>

右七名訴訟代理人弁護士 名波倉四郎

被告 牧野義照

右訴訟代理人弁護士 宇津泰親

右訴訟復代理人弁護士 志賀剛

第一 主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二 請求の趣旨

被告は原告らに対し、別紙物件目録一(一)および(二)記載の建物(以下本件建物または(一)(二)の建物という。)を収去して同目録一記載の土地(以下本件土地という。)を明渡せ。訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

第三 請求の趣旨に対する答弁

主文同旨の判決を求める。

第四 当事者間に争いのない事実

一 原告らは本件土地を所有している。

二 原告吉原辰之介は昭和三四年六月二一日被告に対し、本件土地を期間二〇年と定めて賃貸し、被告は、(一)の建物についてはそのころ、(二)の建物については昭和三八年九月ごろ、それぞれその所有権を取得した。

三 被告は訴外沼田文之進に対し、(一)の建物については昭和三八年五月ごろ、(二)の建物については同年九月ごろ、いずれもその所有権を譲渡した。

(一)の建物は、昭和三九年一月七日訴外大東京信用組合の申立による抵当権実行、同年七月二三日競落により更に訴外斉藤利喜に所有権が移転した。

四 そこで原告辰之介は昭和三九年一〇月三日被告に対し、本件土地の無断転貸または賃借権の無断譲渡を理由として、本件土地賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

五 被告は昭和四四年一二月ごろ再び(一)(二)の建物の所有権を取得し、本件土地を占有している。

六 本件建物の登記簿上の記載はつぎのとおりである。

(一) (一)の建物

1 昭和三四年七月一三日受付所有権移転、取得者被告、原因同年同月一〇日売買

2 昭和三九年一月九日受付競売法による競売申立、申立人大東京信用組合、原因同年同月七日競売開始決定。

3 昭和三九年一月一七日受付所有権移転、取得者沼田文之進、原因昭和三八年五月一三日売買。

4 昭和三九年九月七日受付所有権移転、取得者、斉藤利喜、原因同年七月二三日競落。

5 昭和三九年一一月三〇日受付所有権移転、所有者、吉成道雄、原因同年同月二八日売買。

6 昭和四四年一二月二四日受付所有権移転、所有者被告、原因同年同月一八日売買。

(二) (二)の建物

1 昭和三八年九月一三日受付所有権保存、所有者牧野玲子。

2 昭和三八年九月一九日受付所有権移転、取得者沼田文之進、原因同年同月一八日売買。

3 昭和四四年一二月二四日受付所有権移転、所有者被告、原因同年同月一八日売買。

第五 争点

一 被告の主張

(一) 被告は、義父(被告の妻訴外牧野玲子の父)である訴外沼田文之進から、昭和三八年四月一〇日金二〇〇万円を、弁済期日同四二年四月三〇日、無利息の約束で借受け、沼田に対し、本件建物を買戻特約付売買の形式により譲渡担保の目的に供したのである。

(二) そして訴外斉藤利喜は、あらかじめ被告に対して買戻しの意思があることを確かめた上、(一)の建物を競落したのであり、競落後も右建物を自ら使用収益する意思はなかった(沼田に対する(一)の建物の所有権移転登記は競落申立登記に後れているので、沼田は競落人に対抗できない。)。

(三) 被告は昭和三九年一〇月四日斉藤から(一)の建物を代金三二〇万円で買戻したが、被告と訴外吉成道雄との間の同年九月下旬の約束に従って、吉成が右買戻代金その他の費用を被告のために立替支払い、被告は同年一一月二八日吉成に対して右立替金債権の担保目的で右建物の所有権を譲渡し、同月三〇日中間省略登記により斉藤から吉成に対する所有権移転登記が経由されたのである。

(四) そして被告と吉成は、東京地方裁判所昭和四二年(ワ)第一〇五九九号事件について昭和四四年一二月一九日成立した裁判上の和解により、(一)の建物の右譲渡担保契約を合意解除し、被告は立替金、遅延損害金等の債務合計金四一一万二〇〇円の支払義務を認めてそれを目的とする準消費貸借契約およびその弁済契約を締結し、あらためて吉成のため(一)の建物に第一順位の抵当権を設定し、かつ代物弁済の予約をした上、昭和四四年一二月二四日右建物について吉成から被告に対する所有権移転登記手続を経由した。

(五) (二)の建物については、沼田文之進は昭和四四年一一月二九日被告に対し、前記貸付金残金の債務を免除し、右建物の買戻しによる所有権移転登記手続をなすことを合意した。

右合意にしたがい右同日売買を原因として同年一二月二四日沼田から被告に対する所有権移転登記が経由された。

(六) ところで、本件建物の登記簿上の所有名義如何にかかわらず、被告とその家族および被告からの建物賃借人のみが終始右建物の占有を継続してきたのである。競落人斉藤利喜はいうまでもなく、担保権者である吉成道雄、同沼田文之進も本件建物を現実に占有使用した事実はない。

(七) 以上の事実関係から、被告の訴外人らに対する本件建物の所有権移転はいずれも土地の転貸または賃借権の譲渡を伴わず、本件土地の賃借人として賃貸人に対する背信行為と認めることができない特段の事情がある場合に該当する。

したがって本件契約解除の意思表示は効力を有しない。

二 原告らの認否および主張

(一) 被告主張の(一)(四)ないし(六)の事実は不知、その余の事実は否定する。

(二) 仮りに被告主張のとおりの事実関係があったとしても、およそ借地上の建物の所有権が移転した場合には、それに附随して土地賃借権が譲渡されたとみるべきものである。その場合建物内に誰が居住していたかは何ら関係ないはずである。本件建物所有権は現実に沼田、斉藤、吉成に移転しており、同人らが本件土地を占有していたものであることは論をまたない。

被告がよしんば本件建物を買戻したとしても、それ以前の解除の効果を失わせ賃貸借契約を復活させるものでないことは理の当然である。

第六 証拠≪省略≫

第七 争点に対する判断

一 ≪証拠省略≫によれば、つぎの事実を認めることができる。

被告は、事業に失敗して多額の負債を有していたところ、妻の父である沼田文之進からも約二〇〇万円の融資を受けていたことから、昭和三八年五月ごろ(一)の建物を担保として沼田に譲渡することとし、代金二〇〇万円とする買戻特約付の売買契約を締結し、買戻期限を昭和四二年四月三〇日と定めた。その後(二)の建物を増築し、債権者に対する対策上区分所有権者名義を妻の玲子としたが、同年九月ごろ(二)の建物も(一)の建物同様担保として沼田に譲渡した。

ところが、(一)の建物については沼田に対する所有権移転登記が後れたため、被告の債権者による抵当権の実行として競売の申立てがなされ、昭和三九年七月二三日斉藤利喜が競落した。

しかし斉藤は、裁判所の不動産競売事件に出入して競落を仕事としていた関係上、(一)の建物競落に当っては被告から買戻しの強い希望があったので、競落後は自己使用や他への転売の方法をとらず、専ら買戻しをする被告およびその資金提供者吉成道雄との交渉を進め、昭和三九年一〇月四日再び被告に売渡した。

もっとも、被告は同年一一月ごろ吉成に対し右買戻代金立替債権の担保として(一)の建物を譲渡し、中間省略登記により斉藤から吉成に対する所有権移転登記が経由された。

その間本件建物は被告およびその家族の住居として使用され、昭和四四年一二月(一)の建物については被告と吉成との間の譲渡担保契約の合意解除、(二)の建物については沼田の被告に対する債務免除により、いずれもその所有権が被告に復帰して被告に対する所有権移転登記が経由されるまで、本件建物および本件土地の利用状況が変更されたことはない。

以上の事実が認められるのであって、右認定を左右するに足る証拠はない。

二 被告は、沼田や斉藤に対する本件建物所有権移転は本件土地の賃借権の譲渡を伴っていないと主張するが、建物は敷地利用権を離れてはその担保価値を把握できないし、敷地利用権を伴うことが通常当事者の意思にそうものであるから、特段の意思表示がない以上、建物の譲渡担保においては敷地の借地権にもその効力が及び賃借権も担保権者に移転すると解すべきであり、建物の抵当権においては敷地の賃借権は従たる権利として民法三七〇条の「不動産ニ附加シテ之ト一体ヲ成シタル物」にあたると解すべきであるから、沼田も斉藤も本件土地の賃借権を譲り受けたものといわなければならない。

しかしながら、建物譲渡担保権者の敷地賃借権の取得はあくまで担保目的であって、建物所有権の取得と同様確定的なものではなく、特に土地賃借人が建物譲渡後も引き続きその使用をしているときは、建物の使用を介して土地の占有をも続けている面を否定できないから、かかる場合には土地賃貸人は民法六一二条二項による契約の解除はできないものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四〇年一二月一七日判決民集一九巻九号二一五九頁参照)。

また、抵当建物競落人が競落後短時日のうちに敷地賃借人である建物の旧所有者に建物を売戻し、かつその前後において建物の利用関係に変動がない場合は、実質的には、旧抵当権の消滅、被担保債権の満足、ときには新たな被担保債権、担保権の創設といった担保権の変動があるにとどまり、敷地利用関係には殆ど変動がないと解してよいから、この様な場合にも土地賃貸人は民法六一二条二項による契約の解除はできないものと解するのが相当である。

三 本件の場合、本件土地賃貸借の契約解除の意思表示がなされたときには、沼田に対する関係では本件建物の買戻期間中であるし、斉藤に対する関係では競落後二か月余の買戻交渉中であり、いずれの場合も被告が建物の使用を継続していたのであるから、民法六一二条二項による解除は、その効力を生じないものといわなければならない。

してみると、原告吉原辰之助と被告との間の本件土地賃貸借契約は未だ継続中ということになる。

原告吉原辰之助の供述によれば、原告辰之助は、他の原告らから授与された管理権に基づき、本件土地の管理行為として被告との間に本件賃貸借契約を締結したことが認められるから、被告は本件土地賃借権をもって原告辰之助のみならず他の原告らに対しても対抗できる筋合である(このことは当事者による明示の主張はないが、弁論の全趣旨よりこのことを当然の前提とした主張がなされているものと認める。)。

第八 結論

結局被告は、本件建物を所有して本件土地を占有するにつき、正当権原として本件土地の賃借権を有し原告らに対抗できるので、本件土地所有権に基づいて本件建物収去土地明渡を求める原告らの請求は失当である。

よって原告らの請求を棄却し、民訴法八九条、九三条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 堀口武彦)

<以下省略>

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